特集
ヒグマの被害に遭わないために
掲載号:2024年8月号
北海道の多くの地域はヒグマの生息地です
北海道のヒグマの個体数は増加傾向にあり、警戒心の薄いヒグマが道内各地の都市部やその周辺地域などの人の生活圏に頻繁に出没するようになってきています。
■ヒグマ推定生息数の変化
ヒグマの捕獲頭数やこれまでに実施した調査の結果などを用いたシミュレーションの結果、令和4年(2022年)末には、全道で12,200頭程度(令和6年(2024年)3月末時点の推定値で変動あり)のヒグマが生息し、その数は増加傾向にあると考えられています。
■人身事故発生状況
被害者の活動別では、狩猟や許可捕獲時によるものが全体の37%で最も多く、次いで山菜採りやキノコ狩りの際に発生したものが全体の24%を占めています(昭和37年度(1962年度)から令和5年度(2023年度)までの死傷者数)。
■農業被害額
令和4年度(2022年度)には2億7千万円となり、作物別にみると、最も被害額が多いのはデントコーン(被害額全体の48%)であり、次いでビート(18%)、スイートコーン(7%)、小麦(3%)、水稲(3%)となっています。
【1】ヒグマに出遭わないために
■出没地域に住む人
- ・生ゴミ(コンポスト)などを屋外に置かない
- ・ヒグマの好む作物は、電気柵で防御
- ・出没情報があるときは、夜間や薄暗い時間帯の外出を避ける
- ・犬の散歩は、吠え声でヒグマを興奮させる恐れがあり危険
■登山・ハイキング・山菜採りなどは特に注意!!
- ・出没情報のあるところには立ち入らない
- ・野山などでは複数人で行動する
- ・鈴や笛で音を出しながら歩く
- ・ヒグマの痕跡を見つけたら引き返す
- ・早朝や夕方はヒグマの活動が活発になるので注意
- ・渓流近くは周りの音が聞こえづらいので注意
- ・万が一の場合に備えて、クマスプレーを携行する
【2】ヒグマに出遭ってしまったら
■遠くにヒグマを見つけたら、その場から静かに立ち去る
落ちついて状況を判断し、その場から静かに立ち去りましょう。
■ヒグマがこちらに気づいても、あわてないで静かに立ち去る
ヒグマの移動する方向を見定めながら、静かに立ち去りましょう。
■それでも近づいてきたらゆっくりと後退
ヒグマから視線を離さず、ヒグマの動きを見ながらゆっくりと後退を。
■走って逃げるのは自殺行為
ヒグマを刺激しないよう、ゆっくりと後ずさりしましょう。
■子グマの近くに必ず母グマあり
母グマは子グマを守ろうと攻撃します。決して子グマに近づかないように。
■襲い掛かってきたら、首の後ろを手で覆い地面に伏せる
100%完全な対応ではありません
首や後頭部への致命傷を防ぐため、首の後ろを手で覆い、地面に伏せることが有効と言われています。
▼▼WEB限定コンテンツはこちら▼▼
ヒグマの生態の研究に加え、農地や人里への出没原因の解明と対策にも取り組んでいる酪農学園大学の佐藤喜和教授にお話をうかがいました。
■インタビュー
佐藤 喜和さん
酪農学園大学 教授
農食環境学科 環境共生学類 野生動物生態学研究室
インタビュー動画もご覧ください
ヒグマの現状について教えてください
人間の力がやっぱり圧倒的に優勢だった時代があって、シカもクマもいろんな野生動物が人の勢いに負けて、森の中へ押し込まれていったわけですよね。
(時代が進むにつれ)経済的にも低迷時代が長く続いて、やがて人口減少と高齢化の時代が来る中で、人間生活は都市向きに、街の中で暮らすような社会になっていった。その時に実はシカもクマもじわじわと街の方にまで分布を広げてきた、ということだと思うんです。
さらにそのクマたちは、山奥で人に追われていた頃のクマとは違い、人を怖いと思ったことのないクマたちが人の近くで増えている、というのが今の状況だと思います。
まずはそういう、昔とは違うんだ、ということをまずは知っていただくということですよね。
人の生活圏の中にクマが入ってきてしまう、という問題もあって、それは大きく2つの側面があると思うんです。
一つは、夏から秋にかけて森の中にエサが少ない時期があるんですよね。クマの世界の中で端境期と言いますが、クマたちは食糧を求めて下りてくるんです。北海道で農業をやっている以上は絶対避けられないですね。(クマが)畑に入らないように、電気柵を張るとか、草刈りをしながら見通しを良くするとか、何か対策しない限りは来続けるということですね。
もう一つは、5~6月から7月上旬ぐらいまで。この季節というのは、クマの世界は繁殖の季節で、オスグマが広い範囲を動き回りながらメスを求めて動く。そのときに小さな小グマを連れた母グマというのは、自分の父親であるオスならいいんですが、そうじゃないオスグマが来ると小グマは殺されてしまう可能性があるんです。すると母グマは、オスが来ないような場所・動かない時間に行動します。そうすると昼間だったり、あえて人目につくような場所にいる。それは親子グマにとって、人間よりもオスグマの方が怖いんですね。だから人間の前に出てきてしまう、というようなことがあるんです。
また、同じ季節に若いオスのクマが親離れをして独り立ちしているのですが、経験が浅いのとオスグマの攻撃に遭いやすいので、オスが動かない昼間なんかに見知らぬ土地を歩く。すると、どうしても人目につきやすい場所に出てくる。それがさらに、森と街の中が河畔林などの発達で緑地がつながっていて、そうすると森なのか里なのか分からないまま迷い込んでしまうんですよね。この時期というのは、エサを求めて出てくるのではなく、オスグマを避けて出てきたり、街中や農地の中に迷い込んでしまうんですね。
実際、札幌市や各地でもそうだと思いますけれど、本当にこの5~6月は親子グマの目撃とか親子グマによる事故が多いんですよね。それはやっぱそういう要因が関わっている、と思います。
ヒグマとの事故をなくすために、道民一人ひとりができる対策のポイントについて教えてください
例えば、捕獲数を増やしてクマを駆除すれば、問題解決するんじゃないか?って思いがちなんですけど、クマが侵入しないような地域づくりも同時にしないと。大雨災害とか大雪とか地震って、対策すればなくなるとは誰も思ってないですよね。必ず来るじゃないですか。クマも同じと思わないといけない、と思うんですね。
クマが出た時の出没対応とか苦情っていうのは、行政とか警察とか、そこから委託を受けた防除員というか狩猟者の方たちが今は担っているわけですよね。今後もその形でいくと思いますが、それだけでは自分の身は守れないかもしれないし、そもそも街にクマが入ってくることを許している時点で問題は大きくなるわけですよね。
そうした時に自分たちで、例えば入ってきたクマがゴミを食べてしまわないようにとか、家庭菜園を荒らしてしまわないようにとか、身の回りでクマを誘引してしまう原因はきちんと管理しましょう、ということがまず1つです。
あとはやっぱり地域ですね。例えば、山沿いから川が繋がっていて、クマの侵入ルートになっているようなところでは、例えば地域の町内会の皆さんと一緒に草刈りをして、見晴しを良くすることで、クマが迷い込まないよう、気がつくような環境を作ってあげるとか。クマの入りにくい地域づくり、というのはやっぱり市民の力でできることだと思いますね。
【3】人とヒグマとの共存のための取り組み
個体数の増加、分布の拡大、警戒心の低いヒグマの出没などで、人とヒグマとの距離が近くなっています。共存のためには、人とヒグマとの「すみ分け」がポイントになります。
■北海道ヒグマ管理計画
道では、ヒグマによる人身被害の防止や人里への出没の抑制、農業被害の低減、ヒグマ地域個体群の存続を図るため、「北海道ヒグマ管理計画」を策定し、2つの方策を柱とした総合的な対策に取り組んでいます。
※近年、人とヒグマとのあつれきがかつてないほど高まっており、その低減を図るため、現在、計画の見直しについて検討を進めています。
❶あつれき低減のための方策
人とヒグマとのあつれきの低減には、問題個体の発生抑制と排除のための対策が必要なほか、一人一人が被害に遭わないための正しい知識を身に付けることなどが重要です。
道では、ごみや農作物の管理を徹底し新たな問題個体を発生させない取り組みや、問題個体の排除、電気柵の導入促進による農業被害の防止、ヒグマに出遭った時の対応などに関する正しい知識の普及などを行い、あつれきの低減を図っています。
❷地域個体群存続のための方策
地域個体群を保全するために、研究機関や関係機関などと連携を図りながら、科学的なデータの蓄積や個体数などの把握のための調査研究やモニタリングを行っています。
また、地域ごとにメスの捕獲数に上限を設けるなど、地域個体群の絶滅を回避する管理を行っています。
■春期管理捕獲
【概要】
人里周辺のヒグマの生息密度を減らし、人への警戒心を持たせ、人里への出没を減らすとともに、捕獲従事者の育成を進めるため、2~5月に春期管理捕獲を実施しました。
【実施結果】
昨年に比べて捕獲数は減少しましたが、捕獲実施市町村数は約2.7倍に、実施延べ日数も約3倍になり、ヒグマに警戒心を植え付ける機会は増えました。
また、経験の浅い方の延べ人員は約1.9倍に増えており、実践の中で経験を積むことで、ヒグマ捕獲従事者の育成に寄与しました。
■指定管理鳥獣への指定
【指定のポイント】
昨年11月、クマ類によるあつれきの高まりを踏まえ、北海道東北地方知事会として、国に対し、クマ類の指定管理鳥獣への指定などについて緊急要望し、本年4月、国は、クマ類(四国を除く)を指定管理鳥獣に指定しました。この度の指定により、国においては、クマ類特有の課題に対応した支援を行うこととしており、道としては、国の支援を活用した対策を進め、より実効性あるヒグマ対策の充実・強化に取り組みます。
■ヒグマの有害捕獲へのご理解について
ヒグマの捕獲に従事される方々は、地域の安全・安心を守る上で、欠くことのできない存在です。こうした方々が、道民の生活を守るために、安心して捕獲に取り組んでいただけるよう、捕獲に従事される方々の社会的な重要性をご理解いただきますようお願いいたします。
ヒグマ検定にも挑戦しよう!
詳しくはこちら:https://www.hbc.co.jp/contents/kumacoco/kentei/
道庁ヒグマ対策室
TEL.011-204-5988