FEATURE 特集

次世代半導体をトリガーに、世界に挑む北海道

ラピダス社が千歳市に建設する工場の完成予想図。「新しいイノベーションを起こすものづくりの現場」として、Innovative Integration for Manufacturing(イノベイティブ・インテグレーション・フォー・マニュファクチャリング)、略して「IIM(イーム)」と名づけられています。

ラピダス社の立地という好機を最大限に生かし、
本道経済の活性化につなげていきます

デジタル化は、IT産業をはじめ幅広い産業で変革をもたらしており、わが国の社会課題の解決や持続的な成長にも必須のテーマとなっています。また、デジタル機器や電子部品に欠かせない半導体は、あらゆる産業のデジタル化を下支えする重要物資として、安定的な確保が必要です。
こうした中、国家プロジェクトの一環として、2022年8月、次世代半導体の量産製造を目指すRapidus株式会社(以下、ラピダス社)が設立され、2023年2月28日、同社工場の立地が千歳市に決定しました。現在、2025年の試作ライン稼働、2027年の量産開始に向け、ハイスピードでプロジェクトが進んでいます。
この次世代半導体プロジェクトは、道内では過去最大となる5兆円規模の投資が見込まれており、暮らしや産業などに大きな効果をもたらすことが期待されています。
道としては、ラピダス社の立地という好機を最大限に生かし、半導体の製造、研究、人材育成などが一体となった複合拠点を実現するとともに、食や観光、再生可能エネルギーなど本道の強みである産業振興とあわせて、本道経済全体の成長に結びつけていくため、オール北海道で目指すべき指針となる「北海道半導体・デジタル関連産業振興ビジョン」を2023年度内に策定する予定です。
ビジョン策定後は、産学官の関係者が緊密に連携し、半導体関連産業の集積はもとより、道内企業の参入促進や取引拡大、人材育成・確保に取り組むなど、本道全体の経済活性化と持続的発展につなげていきます。

「食べて応援!北海道」キャンペーンロゴマーク

ラピダス社の立地決定時に握手を交わす小池淳義社長(右)と鈴木直道知事(左)

INTERVIEW

千歳市に建設中の工場を拠点としてラピダス社が進める次世代半導体プロジェクトとはどのようなものか、新たな挑戦を目指す同社の小池淳義社長に、今後の計画と北海道への思いについてお話をうかがいました。

Rapidus株式会社
代表取締役社長

こいけ あつよし

小池 淳義さん

日本の優れたものづくり力を発揮し、
北海道の皆さんとともに世界に向けてチャレンジしていきたい。

ラピダス社が進める次世代半導体プロジェクトについてお教えください。

社名の「ラピダス」は、ラテン語の「速い」に由来しています。その名のとおり、当社では、半導体の設計から製造までにかかる時間を現状よりも大幅に短縮し、付加価値を高めることを目指しています。進化のスピードが速いAI(人工知能)の分野で、速さは非常に重要です。そこで私どもは、世界最先端の性能を持つ次世代半導体の国内製造を実現しようとしています。
そのためには、新しいビジネスモデルの確立が必要です。半導体の製造には「設計工程」「前工程」「後工程」という3つの工程がありますが、従来は水平分業によって行われてきたこれらの工程を一体的に行い、より効率良く、速く作るための新しいビジネスモデルを展開していきます。さらに、お客さまへの設計支援をはじめとした総合的なサービスを、どこにも負けないスピードで提供したいと考えています。

次世代半導体の重要性や期待される効果とは、どのようなものですか。

AIの進展に伴い、私たちの暮らしや社会は大変便利になりました。今後は半導体の微細化が進み、さらに性能が上がっていきます。一方で、このままでいくとデータ通信量は飛躍的に増加し、莫大な電力を消費することになるので、消費電力を下げるためには次世代半導体がどうしても必要になります。
私どもが量産に取り組む次世代半導体は、回路線幅が2ナノメートル(ナノは10億分の1)というロジック半導体で【下部参照】、高性能でありながら省電力化に寄与するものです。

半導体の主な用途

半導体は、スマートフォンやパソコン、自動車、家電などあらゆる電子機器に入っている部品です。情報の記憶、数値計算、論理演算などの知的な情報処理機能により、電子機器の頭脳部分として中心的な役割を果たしています。

ラピダス社が量産製造を目指す
次世代半導体

回路線幅2ナノメートル※1のロジック半導体※2
電子回路の幅(回路線幅)を狭くして、微細な部品をより多く配置することで性能が向上するとともに、省電力化が図れます。→AI、自動運転、5G、データセンターなどでの利用が見込まれます。

※1 2ナノメートル=髪の毛の約5万分の1(ナノは10億分の1)
※2 スマートフォンやパソコンなど電子機器の「頭脳」

北海道千歳市を製造拠点に選んだポイントは何ですか。

日本全国に候補地がありましたが、事業の進展に伴って工場を拡張していくには、それに対応できる十分な敷地と、水や電力などのインフラが整っていることが大事な条件になります。千歳市は、自然環境との調和においても半導体の生産に最適であり、また、北海道全体が再生可能エネルギーのポテンシャルの高い地域なので、私どもも大きな期待を持っています。
最も大事なのは、優秀な人材が世界から集まってくれる魅力的な土地だということです。研究者や工場で働く従業員に充実した生活を営んでもらえる環境があり、グローバルでの人材交流やエコシステムの発展など、中長期的なポテンシャルが高いという点で選ばせていただきました。

建設中の工場はどのようなイメージで設計されたものですか。

ずっと以前から「自然と共生する工場」のイメージを思い描いていました。また、消費電力を下げるという大きな使命があるので、工場自体もエコである必要があります。北海道の豊かな自然と調和することが重要なので、そうした考えを反映できる工場を実現したいと思います。
現在、工事が順調に進んでいるのは、地元の皆さまの多大なるご支援のおかげと感謝しております。

ラピダス社と北海道が共に目指す将来の姿についてお聞かせください。

まず、私どもは次世代半導体の製造を担うことで、北海道の第2次産業の拡大に貢献できればと思います。一方、北海道を支える農林漁業などの第1次産業においても、高齢化などの社会課題の解決に向けて、AIはますます重要になっていきます。また、世界から北海道に人が集まって経済が活性化することにより、第3次産業にも貢献できるのではないでしょうか。
私どもの立地をきっかけに、国内外からさまざまな人たちが集まって、北海道全体が発展していくことを願っています。さらに、北海道を全世界に発信し、大いに活性化していくという未来を、ぜひ皆さんと一緒に創っていきたいと考えております。

道民の皆さんにメッセージをお願いします。

北海道の皆さまには、いつも温かいご支援とご声援をいただき、心より感謝しております。私どもとしては、北海道から世界に向けて新しいイノベーションをつくっていこうと考えています。それには、北海道が持っているオリジナルの技術や地元に根差したアイデアが重要で、それらをうまく組み合わせることによって、新たな価値を生み出せると考えています。
日本の優れたものづくりの力を発揮して、新しい世界を築き上げるために、北海道の皆さんとともにチャレンジしていきたいと思います。北海道ならではのフロンティア精神で新たな産業のリーダーとして日本を変えていく、そのための絶好のチャンスととらえていただければありがたいと思います。

半導体関連産業をオール北海道で盛り上げよう!

ラピダス社が量産製造を目指す次世代半導体は、わが国の半導体産業の発展とカーボンニュートラルの実現、さらには経済安全保障の鍵となる極めて重要な中核技術です。
道では、国や千歳市をはじめとする関係機関などとも緊密に連携し、国家プロジェクトでもあるラピダス社の次世代半導体工場の整備が円滑に進められるよう取り組んでいます。
「メイドイン北海道」の次世代半導体を通じて、製造、研究、人材育成等が一体となった複合拠点を実現することは、道がこれまで振興してきた、ものづくり・デジタル産業を飛躍させるだけでなく、世界中から研究者や技術者が集う拠点の形成につながることが期待できます。

道の主な取り組み

インフラ整備などの支援

ラピダス社の次世代半導体の量産製造に向け、インフラ整備などの支援を進めています。

展示会の出展や企業向けセミナーの開催

半導体関連産業の集積を目指し、道内企業の取引拡大、参入促進、関連企業などの誘致に取り組んでいます。

2023年12月の展示会出展

半導体人材の育成

半導体関連産業を担う人材の育成に向けて、学生を対象とした出前講座などを実施しています。

道内高等学校での出前講座

道民の理解促進と機運醸成

次世代半導体プロジェクトや半導体産業の将来の展望などについて、道民の皆さんに広く知っていただく取り組みを進めています。

千歳市での説明会

関係機関の主な取り組み

北海道半導体人材育成等推進協議会

北海道経済産業局が、道内半導体関連産業の活性化に向けて設置。道も参画し、人材の育成・確保や取引活性化などの取り組みを進めています。

(一社)北海道新産業創造機構(ANIC)

北海道経済連合会などが設立した相談窓口。道内経済の発展に寄与するため、半導体関連事業に関する円滑な立地、産業集積支援を行いつつ、道内企業の参入促進などを進めています。

北海道大学の取り組み

「半導体拠点形成推進本部」を設置し、半導体関連の研究・人材育成などの取り組みを進めています。

道内4高専の取り組み

「北海道地区4高専半導体人材育成連携推進室」を設置し、半導体人材の育成を強化しています。

道庁次世代半導体戦略室
TEL 011-206-6189

この記事をシェアする